下っ端の憂鬱。

突然の呼び出しに、ユーリとフレンは
慌ててガリスタ邸へと向かった。
「なんだなんだ?俺、まだ今日、何もしてねぇぞ」
「『まだ』って何だよ....。
 もしかしたら、何かあったのかもしれない。急ごう」

ナイレン隊の軍師であるガリスタは、
普段は離れた屋敷で、魔道器や術式の研究を行っていると聞いていた。
ユーリ達の居る騎士団宿舎に顔を出すこともあまり無く、
ろくに口を聞いたことがないのにも拘わらず
突然の呼び出し。

屋敷の扉を開いた瞬間、ユーリは我が目を疑った。
「.....なんだこれ!!」

部屋の中は、家具や書類が散乱し
さらに、いたるところに妙な液体が飛び散っている。
魔物に襲撃されたのかと、ふたりはとっさに剣を構えた。
「いったいどーなってんだよっ」
「ガリスタ軍師!いらっしゃいますか?フレンです、フレン・シーフォです!!」
周囲の気配を探りながら、中へと入っていと
ある部屋の中から物音が聞こえた。
「ユーリ、気をつけて。何かいるみたいだ」
「ああ」
扉の両側に、壁に背を向けて立つ。
ふたり顔を見合わせてひとつ頷くと、タイミングを合わせて中に突入した。
「「はっっ!!」」

部屋の中は、廊下よりもいっそう酷い惨状だった。
本棚が倒れ、大量の書籍が山のように積み重なっている。
液体も、壁から床から散乱し、ねばねばした感触が気持ち悪い。
ふたりは背中合わせで立ち、警戒を強める。
と、突然、本の山が、がざっと動いた。
「!!」
剣を向けると、その中から、ひとりの人物が立ちあがった。
「ガリスタ軍師!」
そう。この屋敷の主のガリスタだった。
「やあ。やっと来てくれたね」
ふたりの警戒をよそに、本人はいたって涼しげな顔だ。
「軍師、大丈夫ですか?怪我などは...」
「ああ、大丈夫だ。心配には及ばない」
「で?襲ってきた魔物はどこ行ったんだよ」
「え?」
ガリスタは首をかしげると、次の瞬間、あははと笑い飛ばした。
「この惨状は魔物の仕業ではないよ。私だ」
「はあ!?」
「だって....、それにしては....」
この状態は酷すぎる。
「実は、術式の解読をしている最中に、突然暴走を始めたんだ。
 気がついたときには、すでにこの有様でね」
「はあ.......」
いったい、どんな術式を使えば、こんなことになるんだろう...。
「んで?わざわざ俺達を呼び出した理由は何だよ。
 この有様を見せびらかすためじゃねーだろ」
「ちょっ、ユーリ!口のきき方を....」
「ああ、もちろん。君たちに頼みたい仕事があってね。
 ......君たちにしか頼めない仕事が....」
指で眼鏡を上げながら、不敵の笑みを見せる。
「はい。何なりとお申し付けください」
「ああ!?こらフレン、お前なに勝手に安請け合いしてんだっ」
今にもフレンに突っかかろうとしてたユーリを
ガリスタは咳払いひとつで制した。
「では、ふたりには、ここの掃除をお願いする」
「はあ!?何で俺達がっ!!」
「帝都で開催される会議に出席しなければならなくてね。
 もう出発しないと間に合わないんだ」
「......だったら、術式の解読なんかしてねぇで、とっとと出ればよかったんじゃ....」
「というわけで、明日の夜には終わらせておいてくれ。それでは」
「って、ちょっと待てこらー!!!」
ユーリの叫びを軽く無視して、ガリスタはさっさと屋敷を出ていった。
「....................................................。」
そして、ふたりだけが屋敷に残された。
フレンは大きくため息をつき、改めて部屋を見渡す。
「はぁ、しょうがない。掃除道具を探すか...」
「げっ。マジでやる気かよ」
「こんなことでも上司命令だ。背くことは許されないよ」
「ちっ。相変わらず固ぇな....」
ユーリの悪態をよそに、フレンは部屋を出ていった。

「なあ。こんなの、俺達ふたりで終わんのか?」
フレンは散らばった本の片付け、ユーリは床掃除に励んでいた。
とはいえ、厄介なのはこの液体。
雑巾までねばねばになってしまい、拭いても拭いても終わる気配が見えない。
「さっきから全然進まねぇんですけどーっ!」
「口を動かすヒマがあったら手を動かす!」
「....................へいへい」
飽きっぽいユーリは、先ほどから悪態をつきまくっているが
フレンは全く相手にしてくれない。
「いっそのことさ、ヒスカとシャスティル呼んできて
 魔術でぱーっと片付けてもらったほうが早くね?」
「だめだよ。彼女たちは昨日から、ユルギス副隊長といっしょに山に入っているじゃないか」
「ちっ、いっそのこと屋敷ごと燃やしちまうか.....」
「何か言ったかい?」
「いいえべつにー」
ユーリは雑巾を絞ると、バケツを持って立ちあがった。
「よっと。ちょっとコレ捨ててくるわ」
「................逃げるなよ」
「へいへい」
ひらひらと右手を振って、ドアを開けた瞬間。
足元にあった本を踏んでしまい、
「...う、おわっっ!!!」
「ユーリ!!」
そのまますっ転び、バケツの液体を頭から被ってしまった。
「うぷっ、冷てぇ!」
「もう、何をやっているんだ君はっ」
フレンも、慌てて駆け寄る。
ユーリは、服から髪の毛から、どろどろの状態になっていた。
腕を振り払い、液体が垂れ落ちる前髪をかき上げる。
「うげ、気持ち悪ぃ」
「ホントに君は、掃除するのが下手だね。
 片付けているのやら、散らかしているのやら」
「うっせ!」
「とりあえず、風邪ひくといけないから、これ脱いで.....」
そう言いながらユーリの服の襟もとにかけた手を、思わず止めてしまった。

ユーリの綺麗な首すじを
とろりとした液体が、胸元へゆっくりと流れおちる。

その様子が艶めかしくて、ごくりと唾を飲み込んだ。



(2*)へつづく(R指定です。ご注意!)



映画、まだ1回しか見ていないので、ガリスタさんの喋り口調は超アヤシイです!
ガリスタさんを思い出そうとすればするほど
TOAの某大佐が頭をよぎって........あああ....。

騎士団のラフな格好が好きですv(突然)
ユーリ胸元開きすぎ腰細すぎ!
フレンと同じ身長なのに、腰はユーリのが細く描かれているマジック。
(あれ、わたしのフィルターですか?)



(2009.10.21)



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