オレたちは、また茂みの中を歩いていった。 しかし、元の大きさに戻ったおかげで視界は良好だ。 ふわふわしたスカートが歩きにくくてしょうがねぇんだけど。 しかしこの服、なんとなく見覚えがある。どこで見たんだっけ。 「ああ!あれだ」 やっと思い出した。 身体が小さくなる薬。 永遠に続く茶会。 そしてこの衣裳。 ガキの頃にハンクスじいさんに何度も聞かせてもらった、おとぎばなしのまんまだ。オレも、下町の子供たち聞かせてやったこともある。 なんでオレがここにいるのかは解んねぇが、話の流れは大体見えてきた。 「ま、じたばたしても何ともなんねぇし、これはこれで楽しませてもらうとするか」 そうして、前を歩くうさみみのカロルに導かれるまま、オレは次のステージにたどり着いた。 「......何やってんだ?あれ」 「さぁ......」 オレとカロルは、同時に首をひねった。 そのステージは、また開けた場所になっていた。 真ん中には、赤い服に銀色の髪を持つ人物――デュークがいた。 彼は何故か、体育座りをしている。 「よぉ、デューク。何してんだ?」 近づいて声をかけると、彼はゆっくりとこちらを見上げてきた。 「......時の迷い子か」 『時の迷い子』ねぇ。次から次へと、いろんな呼び方してくれるぜ、まったく。 「わん!わん!」 急に吠えだしたラピードのほうを見ると、そこにはオタオタとジェントルデスノがいた。 オタオタはともかく、ジェントルデスノはデュークの真似をしてるのか、同じように体育座りをしている。 「......で?ここでのイベントは何なんだ?」 「クロッケーをやろうと思っている」 「くろっけー......って何だ?」 「ボールを棒で打って、枠にくぐらせる遊びだよ」 首をかしげたオレに、カロルがすかさずフォローを入れてくれる。 「ボールと棒......ねぇ」 瞬時に、おとぎばなしの記憶をたどってみる。 確か物語の中では、動物をボールと棒に例えて遊んでんだっけ。 ......もしかして、このオタオタとデスノーでやれってか? 「それで、球をどこにくぐらしゃいんだ?」 すると、デュークとデスノーがそろって腕をあげた。 二人が指差す方向には、ふたりの人間が身体をそらせて、いわゆる『ブリッジ』の格好でいた。 よく見ると、それは見知った人物。 「よお。デコとボコじゃねぇか」 「デコではないのであ〜る!」 「ボコじゃないのだっ!!」 オレの言葉に瞬時に反応して、ふたりは立ち上がった。 世界は変わっても、リアクションは同じかよ。 「ま、何にせよ、これでコロッケとやらをやりゃいいんだろ?」 「クロッケーだよ、ユーリ......」 「どうするつもりだ」 「いいからいいから。お〜いデコボコ、いくぞ〜」 デコボコに用意をするように促すと、ふたりは同じリアクションを返しながらも、しぶしぶとブリッジの体制に戻った。 オレはデスノの足を両脇に挟むように抱え上げ、勢いをつけるために回転を始める。 そう。オタオタがボールならデスノは棒の代わりで、デコボコたちは枠ってわけだ。 「ちょっと、ユーリ......」 カロルが慌てたように止めに入ろうとしたが、もう遅い。 遠心力を利用し勢いがついてきたところで、気合を一発。 「おらよっっ!!!」 デスノの頭がオタオタに見事命中し、高速回転しながら飛んでいった。 さらに、うっかりデスノを抱えた手が滑ってしまって、いっしょにデスノまで飛んで行ってしまった。 「あ......」 「ぎゃ―――!!!!」 オタオタとデスノは、見事デコボコに命中した。 「......なんか、思ってたのと違うけど、まいっか」 とりあえず、クロッケーっぽくはなっただろう。 これでイベントは無事終了。いい加減、そろそろ元の世界に戻りたいと思ったのだが。 しかし、それを一部始終見ていたデュークは、何故か肩を震わせていた。 「ん?どうした?」 「......許せん」 「は?」 「ちょっと、まずいよアリス」 「何が」 するとデュークは勢いよく立ち上がった。 「この者を捕らえよ!」 「はあ!?」 デュークの声とともに、頭を抱えて痛みに耐えていたデコボコとデスノーが起き上がり、オレに飛びかかってきた。 さらに、カロルまで。 抵抗する間もなく次々と上に乗られて、身動きが取れなくなってしまう。 「ちょっ、何すんだお前ら!」 「観念するのであ〜る」 「おとなしくするのだ」 「うう、ごめんねアリス。ハートの女王様の言うことは絶対なんだ」 『ハートの女王様』ってデュークのことか?こいつは男だろが......。 しかし、当の本人のデュークはカロルの発言は気にしていないようで、冷たい瞳をしてオレを見下ろしていた。 「この者を、城へ連行しろ」 「な、オレが何したってんだよ」 「動物虐待」 「......はあ?」 「貴様はかわいいオタオタを足蹴にしたあげく、さらにはジェントルデスノまで投げ飛ばした」 「なんだ。そんなことかよ」 「『そんなこと』ではない。動物虐待は大罪だ」 「我々は無視なのであ〜る」 「あんまりなのだ......」 「これ以上貴様に話すことはない。連れていけ」 そう冷ややかに言い残して、デュークはこちらに背を向け去っていった。 悪いことをした自覚はこれっぽっちもないが、逃げるにしてもどこへ逃げていいのか解らない。それに、捕まることには慣れている。 どうぜ、10日ほど牢屋に入っていれば出てこれるだろう。 何も知らないオレは、この時はまだ甘い考えに浸ることしかできなかった。 (5)へつづく |
![]() |