ユーリ in WONDERLAND! (4)

オレたちは、また茂みの中を歩いていった。
しかし、元の大きさに戻ったおかげで視界は良好だ。
ふわふわしたスカートが歩きにくくてしょうがねぇんだけど。
しかしこの服、なんとなく見覚えがある。どこで見たんだっけ。
「ああ!あれだ」
やっと思い出した。

身体が小さくなる薬。
永遠に続く茶会。
そしてこの衣裳。

ガキの頃にハンクスじいさんに何度も聞かせてもらった、おとぎばなしのまんまだ。オレも、下町の子供たち聞かせてやったこともある。
なんでオレがここにいるのかは解んねぇが、話の流れは大体見えてきた。
「ま、じたばたしても何ともなんねぇし、これはこれで楽しませてもらうとするか」
そうして、前を歩くうさみみのカロルに導かれるまま、オレは次のステージにたどり着いた。



「......何やってんだ?あれ」
「さぁ......」
オレとカロルは、同時に首をひねった。
そのステージは、また開けた場所になっていた。
真ん中には、赤い服に銀色の髪を持つ人物――デュークがいた。
彼は何故か、体育座りをしている。
「よぉ、デューク。何してんだ?」
近づいて声をかけると、彼はゆっくりとこちらを見上げてきた。
「......時の迷い子か」
『時の迷い子』ねぇ。次から次へと、いろんな呼び方してくれるぜ、まったく。
「わん!わん!」
急に吠えだしたラピードのほうを見ると、そこにはオタオタとジェントルデスノがいた。
オタオタはともかく、ジェントルデスノはデュークの真似をしてるのか、同じように体育座りをしている。
「......で?ここでのイベントは何なんだ?」
「クロッケーをやろうと思っている」
「くろっけー......って何だ?」
「ボールを棒で打って、枠にくぐらせる遊びだよ」
首をかしげたオレに、カロルがすかさずフォローを入れてくれる。
「ボールと棒......ねぇ」
瞬時に、おとぎばなしの記憶をたどってみる。
確か物語の中では、動物をボールと棒に例えて遊んでんだっけ。
......もしかして、このオタオタとデスノーでやれってか?
「それで、球をどこにくぐらしゃいんだ?」
すると、デュークとデスノーがそろって腕をあげた。
二人が指差す方向には、ふたりの人間が身体をそらせて、いわゆる『ブリッジ』の格好でいた。
よく見ると、それは見知った人物。
「よお。デコとボコじゃねぇか」
「デコではないのであ〜る!」
「ボコじゃないのだっ!!」
オレの言葉に瞬時に反応して、ふたりは立ち上がった。
世界は変わっても、リアクションは同じかよ。
「ま、何にせよ、これでコロッケとやらをやりゃいいんだろ?」
「クロッケーだよ、ユーリ......」
「どうするつもりだ」
「いいからいいから。お〜いデコボコ、いくぞ〜」
デコボコに用意をするように促すと、ふたりは同じリアクションを返しながらも、しぶしぶとブリッジの体制に戻った。
オレはデスノの足を両脇に挟むように抱え上げ、勢いをつけるために回転を始める。
そう。オタオタがボールならデスノは棒の代わりで、デコボコたちは枠ってわけだ。
「ちょっと、ユーリ......」
カロルが慌てたように止めに入ろうとしたが、もう遅い。
遠心力を利用し勢いがついてきたところで、気合を一発。
「おらよっっ!!!」
デスノの頭がオタオタに見事命中し、高速回転しながら飛んでいった。
さらに、うっかりデスノを抱えた手が滑ってしまって、いっしょにデスノまで飛んで行ってしまった。
「あ......」
「ぎゃ―――!!!!」
オタオタとデスノは、見事デコボコに命中した。
「......なんか、思ってたのと違うけど、まいっか」
とりあえず、クロッケーっぽくはなっただろう。
これでイベントは無事終了。いい加減、そろそろ元の世界に戻りたいと思ったのだが。
しかし、それを一部始終見ていたデュークは、何故か肩を震わせていた。
「ん?どうした?」
「......許せん」
「は?」
「ちょっと、まずいよアリス」
「何が」
するとデュークは勢いよく立ち上がった。
「この者を捕らえよ!」
「はあ!?」
デュークの声とともに、頭を抱えて痛みに耐えていたデコボコとデスノーが起き上がり、オレに飛びかかってきた。
さらに、カロルまで。
抵抗する間もなく次々と上に乗られて、身動きが取れなくなってしまう。
「ちょっ、何すんだお前ら!」
「観念するのであ〜る」
「おとなしくするのだ」
「うう、ごめんねアリス。ハートの女王様の言うことは絶対なんだ」
『ハートの女王様』ってデュークのことか?こいつは男だろが......。
しかし、当の本人のデュークはカロルの発言は気にしていないようで、冷たい瞳をしてオレを見下ろしていた。
「この者を、城へ連行しろ」
「な、オレが何したってんだよ」
「動物虐待」
「......はあ?」
「貴様はかわいいオタオタを足蹴にしたあげく、さらにはジェントルデスノまで投げ飛ばした」
「なんだ。そんなことかよ」
「『そんなこと』ではない。動物虐待は大罪だ」
「我々は無視なのであ〜る」
「あんまりなのだ......」
「これ以上貴様に話すことはない。連れていけ」
そう冷ややかに言い残して、デュークはこちらに背を向け去っていった。

悪いことをした自覚はこれっぽっちもないが、逃げるにしてもどこへ逃げていいのか解らない。それに、捕まることには慣れている。
どうぜ、10日ほど牢屋に入っていれば出てこれるだろう。


何も知らないオレは、この時はまだ甘い考えに浸ることしかできなかった。


(5)へつづく






(2010.10.11)



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