連行されてきたのは、大きな城だった。 外見はオレの知るザーフィアス城とよく似たものだったが、中は微妙に違っている。 今オレは、大きな部屋の中心に居る。 オレの立つ演台を取り囲むように設置されている観客席。前には、10人程度が座れるようになっている大きな机。 そこまるで、裁判の場。 観客席には、大勢の人間が居た。 そして脇には、デコとボコとカロル。部屋のほとんどは、傍聴人とみられる人々で埋め尽くされている。 やがて、前方の机に人の姿が現れた。 「―――っ!」 驚きに、心臓が止まるかと思った。 現れたのは、騎士団長の服に身を包んだフレンだった。 ゆっくりと歩みを進める彼は無表情で、こちらをちらりとも見ようとしない。 フレンは壇上に立つと、机においてあった木づちを手にとり、部屋に響くように大きく音を立てた。 「静粛に」 凛と通るフレンの声で、ざわついていた場内がしんと静まる。 「これより、罪人アリスの裁判を開始する」 フレンの言う『アリス』とは、まさしくオレのこと。 とうとうオレは、フレンに裁かれる立場になっちまったってことか。 ごくりと喉が鳴った。 「罪人『アリス』。君は動物虐待の罪に問われている。その事に事実相違ないか?」 「ああ。間違いねぇ」 「......否定、しないんだね」 経緯はともかく、オレがオタオタとデスノに手を出したことには変わりない。それが事実だ。 とは言っても、きっと大事にはならないだろう。せいぜい10日ほど牢屋にでも入ってればいい程度だ。 「それでは、判決を言い渡す」 ......早いな、判決。 まあ、そんなことはどうでもいい。 どうせここはオレが見ている夢の世界だ。 きっともうすぐ目が覚めて、現実には何もなかったことになるのだ。 そんなオレの想いも知らず、城中にフレンの声が響き渡った。 「罪人『アリス』。お前には、無期懲役を言い渡す」 「はあ!?」 ちょっと待て、いくらなんでも刑が重すぎねぇか!? 確かに(100歩譲って)動物虐待したかもしれねぇが、罪に問われるかもしれねぇが、殺した訳でもないのに終身刑って。 「それがお前の言う『法』ってやつかよ、フレン...」 「すまない、ユーリ。しかし、君は罪を償うべきだ」 「オレが終身刑を負わなきゃなんねぇくらいの罪を犯したってか?」 「ああ、そうだ。君は重大な罪を犯している」 「なんだと!?」 『重大な罪』って何だ? デスノを振り回してオタオタを打ち放ったことがそんなに重大な罪なのか!? それともオレは、他にも過ちを犯してたのか? オレの動揺を察したのか、フレンは言いにくそうに口を噤んでいる。 だが、やがて意を決して、右手の拳を強く握りしめながら叫んだ。 「その、君の美しさが最大の罪だっっ!!!」 .........。 「はあ―――!!??なんだそれ意味わかんねぇよ!つか、鼻血を拭け!鼻血を!!」 天下の騎士団長さまも台無しだ。いきなり何を言い出すんだコイツは馬鹿馬鹿しい。 「冗談じゃねぇ。オレは帰るぜ」 「待つんだ、ユーリ!」 「そもそも、ココは本来オレが居るべきところじゃねぇ。お前らの茶番に付き合ってるほどヒマじゃねんだ」 そろそろ起きないと寝坊するかもしれねぇしな。それに、オレが目を覚ますまでずっと寝顔を見てるなんて悪趣味をしているヤツも待ってるし。 オレは手を振って演台から降りると、フレンは低くつぶやいた。 「仕方ない。この手だけは使いたくなかったが......」 ぱちんとフレンが指を鳴らした音が響いた。 次の瞬間、左奥の扉がゆっくりと開き、また見覚えのある人物が現れる。 「......エステル」 しかし、どこか様子がおかしい。普段のエステルからは想像もつかない、どこか邪悪な笑顔を浮かべていた。 フレンはそんな彼女のほうを向いて、ぺこりと頭を下げた。 「エステリーゼ様。お願いします」 「うふふ。逃がしませんよ、ユーリ」 これまた邪悪な何かを含んだ彼女の声に、悪寒が背筋を走った。 そして、傍聴席に居た女たちの目にも、同じような邪悪な色が浮かんでいる。 これは、まさか――。 『そっち』のほうのエステルかぁぁぁああ!!!! もう、嫌な予感しかしない。 オレは慌てて近くの扉へと駆けだした。 しかし、オレの動きと同時に、傍聴席の女たちが一斉にオレをめがけて押し寄せてくる。 早く逃げなければ!! しかし。 「なにっ。開かない!?」 手にかけた扉は施錠されている。とっさに隣の扉に移動し確かめるも、そこの扉も開かない。 ここも。 こっちも! そうこうしている間にも、魔の手はどんどん押し迫ってきていた。 いや、大丈夫。これは夢だ。 オレが見ている、嫌な夢のはずなんだ!! 「ユーリ、観念してください」 手負いの獣を狩るようにゆっくりと近づいてくるエステル。 大丈夫。大丈夫だから―― 「夢なら早く覚めてくれぇぇぇぇ!!!」 おしまい。 |
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