ユーリ in WONDERLAND! (3)

「はぁ〜い!ジュディスちゃん。今日も見目麗しゅう」
「うふふ。ありがとう、おじさま」
「あれ、お客さん?」
茂みの向こうから、また新たな人物が二人現われた。
この世界でも相変わらずなレイブンと、カロルだ。
レイブンは語らずともオレの知っているおっさんのまんまだったのだが、カロルの姿は一味違った。
その格好はもう、あまりにも面白すぎて。
「ぶっ。あはははは!なんだカロルその頭!」
「もう!笑わないでよ。これが僕の仕事なんだから。初対面なのに失礼だなぁ」
「あ、悪ぃ悪ぃ。でも、よく似合ってるぜ?」
カロルの頭上には、かわいらしい白いうさみみがふよふよと風でなびいていた。
まあ、格好に関しちゃオレも人のことは言えねぇか。
「君は、『アリス』だね」
「ああ、そうらしいな。本当の名前は違うけど」
この世界でオレは『アリス』という存在なら、もうそれでいいと思った。
いくら弁解したって、きっとややこしくなるだけなんだろう。
するとおっさんが、カロルを押し退けるようにしてオレの前に立った。
「美しいお嬢さん。私の名はレイブンです。以後、お見知りおきを」
「いっ!?」
レイブンはオレの手を取りどこかの貴族気取りでキスしようとしてきたもんだから、思いっきりその手を叩いてやった。
「いだっ!」
「勘違いすんな馬鹿野郎。オレは男だ」
「何っ!?おっさん、男には興味ないわぁ」
カッコつけた表情から一転、げんなりした顔へとあからさまに変化した。
自分から間違えておいてこの態度、なかなか失礼だな。
「まあ、でも......」
レイブンはふーふーと手に息をかける素振りを止めて、こちらを向いた。
頭の先から爪先まで、まるで値踏みするかのような不粋な視線を浴びせられる。
そして不精髭に手をやりながら、にやりと笑った。
「まあ、アリスちゃんなら『アリ』かもね」
「はあ?意味わかんねーよ」
「ま、ま。お客さんも揃ったことだし、そろそろお茶会を始めましょうかね」
「ええ、そうね」
レイブンの言葉にジュディもカロルも頷いて、そこにあったテーブルセットへと歩みを進めた。
「ほら、アリスも」
たくさんある椅子のひとつを引いて、座るようにカロルが促してくれる。
「何が始まるんだ?」
「お客さまが来たら、お茶会をするに決まってるじゃない」
「そーゆーもんなのか?」
「そうだよ。それにレイブンの作るクレープは、とってもおいしいんだ!」
「く、クレープ......だ、と?」
誘惑にぐらりと心が傾く音がした。
オレは、クレープが、好きだ。
促されるままに椅子に座ると、ジュディスが紅茶を出してくれる。
そして間もなくして、レイブンの手によってクレープの乗った皿が差し出された。
「ささっ、どうぞ」
クレープの焼き加減もクリームの量も絶妙。さらにトッピングまでも完璧だ。
これを目の前にして躊躇うオレがどこにいるだろう。フレンが作ったのなら別だが。
用意されたデザートナイフとフォークで一口の大きさに切り、ゆっくりと口へ運んだ。
「......うめぇ」
甘さ控えめで軽い口当たりのクリームをたっぷり巻いたそれは、オレが知っているレイブンのクレープと同じ味だった。
世界は違うハズなのに、どうしてここまで同じなんだ?
それに、この光景。どこかで見たような......。
頭の隅で不思議に思いながらもクレープを食べる手と口は止まることを知らず、オレはあっという間に平らげてしまった。
「どうよ。おっさんの作ったクレープは」
「すっげー美味い!最高だ!!」
「ホント!?アリスちゃんに気に入ってもらえて、おっさん感激っ!まだまだおかわりあるから、たくさん食べてね」
「まじか!」
こんな旨いクレープが食い放題だなんて、ここはなんていい世界なんだ!


実は、これがおっさんの策略とも知らず、オレは甘い誘惑に手を染めたのだった。





「ちょっと、アリスちゃん...。もう勘弁して......」
「何言ってんだ、おっさん。まだ40個しか食ってねぇぞ」
「もう40個でしょ!うぅ、この甘い匂いだけで胸焼けしそう、うぷ......」
レイブンの言葉どおり、旨いクレープは次から次へと登場した。しかもご丁寧に、色々とアレンジを変えて。
もちろんオレは、それらを綺麗に平らげた。レイブンにとっては、それが誤算だったようだが。
甘味に対するオレの胃袋、ナメんなよ?
「おかしい......。台本どおりならここで『まだよアリスちゃん。お茶会は永遠に続くんだから』って台詞を言うはずだったのに」
「うふふ。甘かったわね、おじさま」
「甘いものだけに、ってか?」
「......ふたりとも」
どうやら大人の高度なギャグ(?)はカロル先生には通用しなかったみたいだ。
それにしても、レイブンの言う『台本』から察するに、オレは何かに陥れようとされてるのか?
まあ、別にオレ自身に目的があるわけでもないし、こっちから嵌められてやるのも悪くはない。
「で?その『台本』とやら通りにコトを進めるとすると、次はどうすりゃいんだ?」
オレの台詞に、一同が目を丸くした。
ジュディを除いては。
「あちらの道を歩いていけば、また面白いものに巡り合えるはずだわ」
「ふぅん。じゃ、行ってみっか」
「えっ。アリス行くの?」
「ああ。もう茶会も終わりみたいだしな。カロル先生、道案内頼むぜ?」
「わんわん!」
「おっ、ラピードも居たな。一緒に行くか」
「わんっ」
「あっ、ちょっと待ってよアリス!」
「じゃあなジュディ、おっさん。クレープごちそーさん」
ひらひらと手を振ると、ジュディは意味深な笑顔で応えてくれた。
おっさんは、まだダメージから立ち直ってなかったようだが。



(4)へつづく






(2010.06.29)



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