ユーリ in WONDERLAND! (2)

やがて森を抜けて、少し開けた場所へと出た。
そこには何かパーティでも催されるような、大きなテーブルセットがどんと置かれている。
しかし、椅子はたくさんあるくせに人気は全くない。かといって、セッティングされてから時間が経っているとも思えない。
いったい何のためのテーブルセットなのか。
どうしても気になって、ラピードにそのテーブルへ近づいてもらおうと思ったその時、背後から巨大な影が近づいてきた。
「あら。可愛らしいお客さまね」
声のするほうを見上げると、すらりとした女性の艶めかしい生足が視界に入った。
あまりの大きさにここは巨人の国か?と一瞬思ったが、よく考えてみればオレが小さいままなのだ。
声をかけてきたその本人は、オレに近づくために身をかがめてきて、今度は視界いっぱいに豊満な胸の谷間が広がった。
これは眼福だ......――じゃなくて。
ゆっくりとそこから顔をあげると、彼女は蒼い髪を持つクリティア族、ジュディだった。
「よお、ジュディ」
「あら?確かに私の名前はジュディスだけれど、どこかでお会いしたかしら?」
「はあ?」
彼女はどう見てもジュディだったが、どうやらオレの知っているジュデイとは別人らしい。
ということは、やはりここは別世界とやらなんだろうか。 面倒なことになりそうだ。
考えに更けていると、ジュディの手がこちらへと伸びてきて掬うように抱き上げられた。
「それにしても、可愛いお人形さんね」
「ちょ......、オレは人形なんかじゃねぇぞ。オレの名前はユーリ......」
「お人形さんは、着せ替えをしなくてはね」
「い゛っ!?」
指がオレの服を脱がしにかかってきたので、慌てて彼女の手のひらから飛び降りた。
「なっ、なにしやがるっ!」
「あら。お人形さんといえば着せ替えごっこでしょう?」
「オレで遊ぶな!人形じゃねぇってさっきから.........うっ」
急に吐き気が襲ってきた。 さっきまで何ともなかったのに。
すんげえ気持ち悪ぃ。そして、身体が熱い。
もしかして、あの瓶に入っていたリタの薬。今頃になって副作用が出てきたのだろうか。
「くっ、うあぁぁぁぁ!」
身体の奥から、熱い何かが込み上げてくる。
耐えきれなくなってぎゅっと目を瞑ると、視界が白く染まった。
そして。


ビリッ。ビリビリビリ!


布が引き裂かれる音が耳いっぱいに入ってきた。
やがて熱も治まってきたのでおそるおそる目を開けると、目の前の景色が一転していた。
「なっ......!」
オレは元の大きさに戻っていた。
しかし、おかげで服はぼろぼろ。小さくなる時は服もいっしょにちいさくなったのに、なんででかくなる時は違うんだよ。詐欺じゃね?
そしてオレは気が付いた。
しまった。目の前にジュディが居たんだ。
なるべく大事なところを見せないように(見られないように)、ゆっくりと振り向いた。
彼女は一糸纏わぬオレの姿に恥じらうどころか、まじまじと見つめている。
そしてオレと目が合うと、にんまりとその瞳を細めた。
「あらあら。ますますお着替えしないといけなくなってしまったわねぇ」
「ちょ、あの、ジュディスさん?」
やべぇ、目がマジだ......。
逃げようにも、さすがにこの格好で走り回れない。
どうすることもできないオレに、とうとうジュディの魔の手が伸びた。



「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!」

叫ばずにはいられなかった。
あれから嫌がるオレに対してジュディが無理矢理着せてきた服は、女物だった。
しかもいつから準備していたのか、サイズはぴったりだった。これでも身長、180センチはあるはずなんだけどな。
やたらふわふわした水色のスカートに、ふりふりの白のエプロンようなもの。下着は薄いピンクの.......いや、この際そんな事はどうでもいい。
「オイ、ジュディ。なんだこの服は」
「うふふ。よく似合ってるわよ。『アリス』」
「オレは男だぞ」
「ごめんなさい。貴方に合うサイズの服がこれしかなかったの」
.....全然悪いと思ってねぇな、こいつ。
おかげでオレの男としてのプライドはずたずただったが、そんなことはジュディには通用しなさそうだ。
大きくため息をつくことで、色んな感情をやりすごす。
「......つか、さっきの『アリス』って何だ」
「貴方の名前でしょう?」
「違ぇよ。オレの名前はユー......」
「貴方は、『アリス』よ」
ジュディの細い人差し指がゆっくりと伸びて来て、そっとオレの口唇に触れた。
そして彼女の艶やかな口唇が、言葉を紡いでいく。
まるでオレの心に刻み込む、魔法の呪文のように。

「貴方は『アリス』。この世界に迷い込んだ、可愛そうなお人形さんの名前よ」



(3)へつづく






(2010.06.26)



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