夢の中の貴方はいつも(2)

目の前にフレンが、いた。

『ユーリ』

オレの名前を呼ぶ声にいつものようなトゲは全くなくて、むしろ優しさで満ちているように思える。
柔らかい金髪と、同じくらいに柔らかい蒼の瞳。
そして、ふんわりと蕩けるような微笑みを浮かべて。
やっぱ、笑ってる顔のがいいって。
ずっとそうやって、笑ってろよ。

『ユーリ、......きだ』

......なあ、なんかオレたち、距離近くね?
しかも、だんだん近づいてきているような。
このままだとさ、アレだ。
ほら、あ......。
唇と唇が、ふれる――



「――っ!」
視界に飛び込んできたのは、やっぱり見慣れた天井だった。
...また、夢?
頭を動かすと、隣のベッドには、相変わらずこちらに背を向けて寝ているフレンがいた。
さっきの夢、何だ?
夢の中の笑顔のフレンと、オレは、何を...した?
「......っ!」
思い出したくもなくて、頭から布団をかぶった。
さっさと寝てしまおう。
もう一度寝ればきっと、夢のことなんて忘れられる。

大体何なんだ。2日連続でフレンが夢に出てくるなんて。
何かの、呪いか?



「構え。――始めっ!」
ユルギス副隊長の声が響いたと同時に、ふたりが同時に踏み込んだ。
今日の訓練は相稽古。1対1で、実践さながらに剣を交わす。
とはいっても、使うのは木製の模倣刀なんだけど。
正直、物足りないっちゃ物足りないが、集団行動訓練みたいな退屈なのよりは、全然いい。
「よし、そこまで。次、前へ」
「よっしゃ」
ようやく順番が回ってきて、オレは腰をあげた。
一度大きく延びをして、身体をほぐす。
開始位置へと歩みを進めると、反対側から剣を交える相手が姿を現した。
その相手は――
「フレン......」
結局あれから寝付けなくて、一睡もできなかった。
夢の中のフレンは、いったいオレに何しようとしてたんだ?
やっぱ、あれって......。
くそっ。訳わかんね。
たかが夢なのに、何でこんなに気になるんだよ。
「構え。始めっ」
「はっ!!」
かけ声に気づいて意識を戻すと、すでにフレンがこちらへ突進してきていた。
「くっ」
真正面から剣を受け止めてしまい、手首に痺れが走る。
やっぱコイツの一撃、重い。
なんとか力任せで振り払い、横へと飛びのいた。
一瞬出遅れてしまった。やべぇ、集中しねぇと。
「はっ!やぁっ!」
それでもフレンは容赦ない。次々と振りおろされる剣を、右へ左へと流していく。
「どうしたユーリ!押させれるぞ」
周りからのヤジが耳に入る。言われなくても解ってるっての。
「ちっ。だぁっ!」
隙を狙って斜め下から飛び込んだが、それも読まれていたのか剣で受け止められる。
「くそっ」
至近距離での鍔迫り合い。お互いに譲らず、睨み合ったまま間合いを計る。
油断して引いたほうが負ける。そう解っていたハズなのに。

ふと、目を奪われてしまった。
フレンの、唇に。

夢の中でオレは、あの唇と――。

「――っ、はあっ!」
「!!おわっ!」
意識が逸れたのがフレンに伝わってしまった。
視界が反転して、一面空の青が広がる。
フレンに凪払われたオレは、無様にも地面に飛ばされた。
「待て。そこまで!」
そして、ユルギスの声が響いた。
「ユーリ。なんだその様は。全然集中していないじゃないか」
「......」
呆れたように言われた言葉に、反論ができない。油断していたのは事実だから。
「もういい。お前は下がれ。次、前へ」
「なっ、もう一回やらせてくれよ」
「駄目だ。ちょっと頭冷やしてこい」
「......ちぇっ」

それもこれも、全部あの夢が悪いんだ!
なんだってんだよ、ったく。
「おい、ユーリ」
後ろから声をかけられて、心臓がドキリと音をたてた。
振り向けば、肩で風を切るような勢いで近づいてくるフレンの姿。
「さっきのアレは何だ。君は訓練を何だと思ってる。もしあれが実践だったら......」
「はいはい。解ってるっつの」
「解っていない!だいたい、君はいつも...」
長い長いお小言が始まる気配がして、顔を背けた。
よくもまぁ、こんなに次から次へと言葉が出てくるもんだ。
そんな言葉は、オレの耳には入らない。
だけど。
ちらちらと、無意識に視線がフレンに向いてしまう。
視線が向かう先は、彼の口元。
よく動く唇。
もし、あの唇に触れたら――。
「おい。聞いているのか、ユーリ!」
「っ!!」
強い語調に、身体がびくりと跳ねた。
意識を戻すと、フレンは大きくため息をついた。
「いったいどうしたんだ。訓練に集中できないなら、さっさと部屋に帰るんだな」
「......わり。そうするわ...」
「え...。おい、ユーリ」
オレの反応を予想してなかったのか、背中でフレンの戸惑う声が聞こえたが、あえてそれを無視した。


やっぱオレ、どこかおかしい。
たかが夢なのに、あの夢が頭から離れなくてどうしようもない。
こんなにも、フレンのことが気になっちまうなんて。



(2)へつづく。




戦闘シーン(?)、書いたの久々。
短かったけど、書くの楽しかったーwwww
まだ、続きます...(^^;


(2010.05.31)



もどる