夢の中の貴方はいつも(3)

「......っ!」

首筋に、ぬるりとした熱いものが這っていた。
視線を少し下げると、ふわふわの金髪がいっぱいに飛び込んできた。
そしてようやく、フレンがオレの首元に顔を埋めていることを理解した。

「....ぁ、フレン」

何をしているのかと名前を呼んだ声が、ひどく甘さを含んでいた。
これ、オレの声...か?
フレンはオレの首筋を舌でゆっくりと辿っていて、その度にぞくぞくとした何かが身体に走る。
不快感じゃない。むしろ、これは......。

『ユーリ、ユーリ......』

うわ言のようにオレの名を口にするフレンの声も、ひどく欲で掠れていて。
その声が耳に響けば、じわりと身体が熱くなるのが解った。


ああ、そうか。オレはまた、夢を見てるのか。
だけど、何だってこんな夢を。
オレ、フレンに抱かれちまうのか?


フレンに抱かれたいって、思ってるのか......?



「ユーリ。おい、ユーリ!」
「――っ!......え?」
目を開けると、視界に飛び込んできたのはよく見慣れた天井......ではなかった。
目の前にあったのは、オレをのぞき込むフレンの顔。
「大丈夫か?ひどくうなされていたぞ?」
「......あ」
心配そうに見つめている蒼い瞳に、オレの姿が映っていた。
暗闇でも透き通って見えるその瞳に、ドクリと心臓が跳ねる。

瞬間、フレンの姿が夢の中のフレンと重なった。
違う。このフレンは、現実のフレンだ。

錯覚を振り払うようにオレはゆっくりと身体を起こして、汗で貼り付いた前髪をかきあげた。
うなされていたんじゃない。きっと、オレは......。
「もしかして、最近よく眠れていないのか?」
さすが、勘のいいフレンは何でもお見通しだ。
「ああ。夢見がよくなくてな。いつも夜中に起こされちまう...」
「ユーリ......」
「え?」
フレンは何か言いたそうだったが、途中で言葉を止めてしまった。
顔を上げると、フレンの視線が気まずそうにさまよっている。
「...すまない。何でもない」
「ん、そっか」
そしてしばらく、ふたりの間に無言の空気が漂う。
フレンが何を言いたかったのか気になったけど、問いただす気力が今はなかった。
余計なことを言って、また口喧嘩になるかもしれないし。そんな気分でもないし。
「すまねぇな、起こしちまって。寝てたんだろ?」
「いや、それは...」
「......ちょっと頭冷やしてくるわ」
そう言って、目の前に立つフレンの身体を軽く退けて、オレは部屋を後にした。


向かった先は、犬舎。
ケンカをして耐えれなくなって駆け込むことはあったが、こんな気分でここに足を運ぶのは初めてかもしれない。
中を覗けば、ランバートが気配に気づいて顔をあげた。
「わりぃ、ランバート。邪魔するぜ」
一言だけ断りを入れて、その隣に腰を下ろした。
彼の胸元では、ラピードがすやすやと眠っていた。
その寝顔があまりにも無防備で、思わずこちらも笑みがこぼれてしまう。
軽く頭をなでていると、ころりとこちらへ寝返りを打った。
「へへ。よく寝てら」
お前みたいにぐっすりと眠れたら、こんな気持ちになることも無かったのにな。
横になって、その身体を軽く抱き寄せた。
ランバートも許してくれたのか、何も言わずに頭を地に伏せる。
胸に抱いたぬくもりが、心地良い。
あの夢で触れたぬくもりも、ひどく心地よかった。
「......どうしちまったんだよ。オレ」
あんな夢に振り回されて。フレンを目の前に、動揺して。
そう、さっきのオレはひどく動揺していた。
あの蒼い瞳にオレが映っているのを見て、思わず抱きつきたい衝動に駆られてしまった。
なんなんだ。この気持ち。
「...もう、どうしていいのか解んねぇよ」
どうしよう。
オレ、もしかしたら。
フレンのこと、好きになっちまったのかも......。



――ユーリ編 終。




えっ!『ユーリ編』って何!?
って思われた方ごめんなさい(^^;
次からはフレンサイドのおはなしです〜。


(2010.06.01)



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