「......っ!」 首筋に、ぬるりとした熱いものが這っていた。 視線を少し下げると、ふわふわの金髪がいっぱいに飛び込んできた。 そしてようやく、フレンがオレの首元に顔を埋めていることを理解した。 「....ぁ、フレン」 何をしているのかと名前を呼んだ声が、ひどく甘さを含んでいた。 これ、オレの声...か? フレンはオレの首筋を舌でゆっくりと辿っていて、その度にぞくぞくとした何かが身体に走る。 不快感じゃない。むしろ、これは......。 『ユーリ、ユーリ......』 うわ言のようにオレの名を口にするフレンの声も、ひどく欲で掠れていて。 その声が耳に響けば、じわりと身体が熱くなるのが解った。 ああ、そうか。オレはまた、夢を見てるのか。 だけど、何だってこんな夢を。 オレ、フレンに抱かれちまうのか? フレンに抱かれたいって、思ってるのか......? 「ユーリ。おい、ユーリ!」 「――っ!......え?」 目を開けると、視界に飛び込んできたのはよく見慣れた天井......ではなかった。 目の前にあったのは、オレをのぞき込むフレンの顔。 「大丈夫か?ひどくうなされていたぞ?」 「......あ」 心配そうに見つめている蒼い瞳に、オレの姿が映っていた。 暗闇でも透き通って見えるその瞳に、ドクリと心臓が跳ねる。 瞬間、フレンの姿が夢の中のフレンと重なった。 違う。このフレンは、現実のフレンだ。 錯覚を振り払うようにオレはゆっくりと身体を起こして、汗で貼り付いた前髪をかきあげた。 うなされていたんじゃない。きっと、オレは......。 「もしかして、最近よく眠れていないのか?」 さすが、勘のいいフレンは何でもお見通しだ。 「ああ。夢見がよくなくてな。いつも夜中に起こされちまう...」 「ユーリ......」 「え?」 フレンは何か言いたそうだったが、途中で言葉を止めてしまった。 顔を上げると、フレンの視線が気まずそうにさまよっている。 「...すまない。何でもない」 「ん、そっか」 そしてしばらく、ふたりの間に無言の空気が漂う。 フレンが何を言いたかったのか気になったけど、問いただす気力が今はなかった。 余計なことを言って、また口喧嘩になるかもしれないし。そんな気分でもないし。 「すまねぇな、起こしちまって。寝てたんだろ?」 「いや、それは...」 「......ちょっと頭冷やしてくるわ」 そう言って、目の前に立つフレンの身体を軽く退けて、オレは部屋を後にした。 向かった先は、犬舎。 ケンカをして耐えれなくなって駆け込むことはあったが、こんな気分でここに足を運ぶのは初めてかもしれない。 中を覗けば、ランバートが気配に気づいて顔をあげた。 「わりぃ、ランバート。邪魔するぜ」 一言だけ断りを入れて、その隣に腰を下ろした。 彼の胸元では、ラピードがすやすやと眠っていた。 その寝顔があまりにも無防備で、思わずこちらも笑みがこぼれてしまう。 軽く頭をなでていると、ころりとこちらへ寝返りを打った。 「へへ。よく寝てら」 お前みたいにぐっすりと眠れたら、こんな気持ちになることも無かったのにな。 横になって、その身体を軽く抱き寄せた。 ランバートも許してくれたのか、何も言わずに頭を地に伏せる。 胸に抱いたぬくもりが、心地良い。 あの夢で触れたぬくもりも、ひどく心地よかった。 「......どうしちまったんだよ。オレ」 あんな夢に振り回されて。フレンを目の前に、動揺して。 そう、さっきのオレはひどく動揺していた。 あの蒼い瞳にオレが映っているのを見て、思わず抱きつきたい衝動に駆られてしまった。 なんなんだ。この気持ち。 「...もう、どうしていいのか解んねぇよ」 どうしよう。 オレ、もしかしたら。 フレンのこと、好きになっちまったのかも......。 ――ユーリ編 終。 |
![]() |