夢の中の貴方はいつも(1)

『ユーリ』

名前を呼ばれて目を開くと、すぐそばに見慣れた顔があった。
ふわふわの金髪と、蒼い瞳を持った、すっかり成長していた幼馴染み。
昔のオレは、この吸いこまれそうな綺麗な蒼が好きだった。
自分にはない、澄んだ、蒼。
コイツの瞳、本当に綺麗だよな。
こんなに近くでゆっくり見るのも、久々だっけ。

『ユーリ』

今、目の前にいるそいつは、オレをみて微笑んでいた。
お前ってさ、やっぱ笑った顔のほうがいいわ。
せっかく綺麗な顔立ちしてんだからさ。もったいねぇ。
うん、そう。思ってたとおり。
すっげ、きれい。
もっと笑っててくれればいいのにな。
なんで、いつも怒ったような顔してんだよ。
オレは、お前の笑った顔をずっと見ていたいのに。




「――っ!」
視界に飛び込んできたのは、見慣れた天井だった。
明かりを消している部屋は、まだ闇に包まれている。
「......夢、か」
着ていた服が汗でべっとりと張り付いていた。気持ち悪ぃ。
嫌な夢でも見ていたのかと、必死に記憶をたどってみる。
いや、そんなに悪い夢ではなかったはずだ。
確か、そう。目の前にフレンがいて、こっちを向いて笑っていて。


.........。


なんでオレがコイツの夢なんか見てんだよ。
しかも、『笑ってほしい』だなんて。
もしかして、オレの願望?
意味解んねぇ!冗談キツいぜ。

ちらりと視線を隣へやると、そこにはこちらに背を向けて、そいつが眠っていた。


フレン=シーフォ。下町の幼馴染み。
とある事情でフレンが引っ越していってから数年後。騎士団の採用試験でオレたちは久々に再会したというのに、奴は少々性格がひねくれてしまっていた。
頑固で堅物。一度こうと決めると、なかなか融通がきかない。
元々そういう性格だったのだが、どこでどう間違ったのか、いっそう拍車がかかっていた。しかも、悪い方向に。
おかげでオレは、小言とイヤミ三昧の毎日だ。
なんでこんな奴と同じ隊で、さらに同室になっちまったのか。



そして朝になって。オレはいつものように、食堂で朝飯をとっていた。
別に席が決まっているわけじゃないが、オレとフレン、そしてヒスカとシャスティルが同じテーブルについていた。
オレの目の前には、黙々とメシを食ってるフレン。
相変わらず無表情...というよりは、いささかムッとしたような顔をしている。
そんな顔でメシ食ってて、美味いのかね。
「ちょっとユーリ。あんた、何さっきからフレンの顔ばっかり眺めてんのよ」
「あ?」
ヒスカに言われて、初めて気がついた。
そんなにオレ、ずっとフレンを見てたか?
「珍しく静かだと思ったら。どうせ、また何かやからしてフレンを怒らせたんでしょ」
シャスティルは呆れたように肩を竦ませた。
「珍しくは余計だ!まだ何もやってねぇよ」
「『まだ』って君は、何かやらかすすつもりっだったのか?」
ようやくフレンが声を出した。
でもやっぱり、目は笑ってない。
そりゃ当り前だ。現実のフレンは、オレに対しては笑わない。
「そうじゃねぇよ。ただ......」
「ただ?」
ヒスカとシャスティルの声がハモる。
フレンって、別に笑ってないわけじゃないんだよな。隊の皆とも、まあまあ上手くやってるみたいだし。
ただなんつーか、愛想笑いっぽくにしか見えなくて。
心の底から笑ってないっていうか。
この凛と張りつめた蒼色に、ふんわりと柔らかい光が差し込めば、もっと綺麗な色に染まるだろうに。
「...なあ、フレン」
「......なんだ」
「笑ってみてくれよ」


――しまった。


「はあ!?」
フレンの大きな声が響きわたって、食堂に居た連中の視線を一気に浴びてしまった。
今、何言ったオレ!?しかし、言ってから後悔しても、もう遅い。
「ちょ、ちょちょちょあんた。何言ってるのよ」
「熱でもあるんじゃないの?」
「な、何でもねぇよっ」
双子姉妹の攻撃からなんとか逃れるものの、返す言葉が見つからない。
『君の笑顔がみたい』だなんて、まるでクサい口説き文句みたいじゃねぇか。しかも相手はあのフレンだぞ?
そのフレンは、しばらく口を開けたまま固まっていたが、やがてぷるぷると震えだしたかと思うと、思いっきりテーブルを叩いた。
「人をからかうのも、いいかげんにしてくれっ!!」
そして、まだ食事の途中だったのにフレンは食堂から出ていってしまった。
あまりに大きな音と大声だったため、一瞬しんとした空気が流れたが、やがて通常のざわめきを取り戻す。
「...もしかして、新手の嫌がらせ?」
「随分手応えはあったみたいだけど」
「だから、そんなんじゃねーって」
オレは大きくため息をついて、椅子の背もたれに体重をかけた。
なんで、イキナリあんなコトを言ってしまったのか。
なんで、あんなにも『フレンの笑顔』に惹かれてしまったのだろうが。
「......単なる夢、だろ」
そして結局その日も、フレンの笑顔を見ることはなかった。


(2)へつづく




劇場版発売、おめでとうございますーwww待ってましたよ!ついにこの時がやってきた!!
映画館で1回、BDで1回観ただけなのに、もう脳内は劇場版のフレユリでいっぱいですよはあはあwww
この興奮は、文字で晴らすしかない...よね?(笑)



(2010.05.30)



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