「骨折です」 「何っ!?」 ザーフィアス城の医務室に、ユーリの声が響きわたった。 ユーリは今、ベッドの上に強制的に寝かされていた。左足が包帯でがっつりと固定されている。 部屋には何故か「一途なコ・メディカル」の衣装を着たエステルと、凛々の明星のメンバー、そして現騎士団長であるフレンの姿があった。 先ほどまで凛々の明星は、ザーフィアス周辺で素材収集に勤しんでいた。 敵は雑魚ばかりで、さっさと用事を済ませてしまおうと戦陣を斬ってユーリが飛び出したその時だった。 一歩踏み出した地面が、いきなり崩れ落ちたのである。 「な......!!!!!」 しかもその下は、受け身が取れないほど細くなっていて、そのままユーリは足から落ちてしまったのだ。 そして、バウルで城へと運び込まれたユーリは、騎士団専属の医者とエステルによる診察を受けていたのだが。 「だ...だけど、災難だったねユーリ。まさか...あんなところに....お、落とし穴なんて......」 慰めの言葉をがんばって口にしようとしたカロルだが、顔は紅潮し、身体も小刻みにふるえている。 ユーリはおおきくひとつため息をついて、低い声でつぶやいた。 「......笑いたきゃ、笑え」 「あははははははは!!!まさか、ユーリが落とし穴に落ちるなんて!あはははは!!!」 「目の前から消えてしまった時はどうしたのかと思ったけれど。落とし穴...くすくすくす」 「ふふふ、ユーリも落とし穴に落ちること、あるんですね。うふふふふふ」 「きっと誰かが、獣を捕獲するために作った罠だったんだろうね。それに引っかかるなんて、ユーリ...ふふっ」 「ちっ、オレは獣以下だってかよ」 カロルを始めジュディスにエステル、そしてフレンにまで笑われたとなっては、もう情けないことこの上ない。 ひとしきり笑って気が済んだのか、ごめんごめんと涙目で謝りながら、再び話はユーリの足へと向けられた。 「とにかく、1週間は絶対安静ですっ」 「なんだよ。治癒術かけりゃ治るだろ」 「ユーリ」 聞き分けのない子供を諭すように、フレンはあえて低い声で名前を呼ぶ。 「ユーリ。治癒術というのは、本人が持っている治癒能力を引き出すための術なんだ。何でも治せるってわけじゃないんだよ」 「解ってるよ、それくらい」 「ユーリは、それだけ重傷ってことなんですっ」 全く解っていないユーリに、エステルも声を荒げた。 「とにかく、ユーリは絶対安静です。治るまで、この城から出ることも許しません」 「なにーー!?」 「まぁ、無茶をした分のオシオキ、ね」 「うんうん」 一緒にいたジュディスとカロルも、当然の報いだと首を縦に振る。 「ご心配なく、エステリーゼ様。ユーリが完治するまで、私がしっかり監視しますよ」 「な......!」 信じられない気持ちで、ユーリはフレンを見上げた。 その表情は清々しいほど笑顔で、逆に胡散臭い。 「というわけで、ユーリ。さっそく僕の部屋へ行こうか」 「ちょっ...おま、自分で歩けるって」 予想外のフレンの行動に、思わず声を荒げた。 まるでお姫様を抱き上げるように、横抱きで身体を持ち上げられたから。 「何を言ってるんだ。足を骨折しているくせに」 「う......」 返す言葉もなく、ユーリは大人しく従うしかなかった。 「ユーリ、大丈夫でしょうか」 ふたりの出ていった扉を見つめたまま、エステルが小さく呟いた。 「大丈夫だよ。フレンが付いてくれてるんだもん。ユーリにだって、たまには休んでもらわないと」 「そうね。逆に悪化しないといいけれど」 ジュディスが意味深に微笑んだのを見て、エステルは首をかしげた」 「ジュディス、それってどういう意味です?」 「うふふ。どういう意味かしらね。それよりも、団長さんがユーリに付いている間、騎士団のお仕事はどうなるのかしら?」 「あ!私、ソディアに言ってフレンを休みにしてもらってきます」 そう言って、ぱたぱたとエステルは部屋を出ていった。 「うふふ。楽しい休暇になりそうね」 (2)へつづく |
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