街角にはクリスマスツリー。

街は赤・緑・白と、クリスマスカラーに彩られ、
街全体がどこか浮かれた空気に包まれていた。
店の前には、いたるところにサンタクロースが立っていて
子供たちも笑顔ではしゃぎまわる。

今日はクリスマス・イブ。
信者ではなくても、今日だけは特別な一日。

そんな様子を、ユーリはひとりで眺めていた。
定番の待ち合わせ場所である時計塔のふもとでは
恋人同士が落ちあい、そして腕をからめて歩みを進めていく。
今日はいつも以上に、街がざわついている感じがした。
いつかは自分も、あんなふうに恋人を待つことになるのだろうか。
そんなことをぼんやりと、他人事のように考えていたとき。

「ユーリ!」

名前を呼ばれて振り向くと、こちらに走ってくる青年が一人。
金髪を持つ、やけに顔の整った親友。
「よぉ」
「ごめん。待たせたね」
「うんにゃ、今来たとこだ」
ユーリも壁にもたれた体勢から身体を起こし、フレンと向き合った。

今日は制服ではなく普段着なふたり。
お互いの普段着なんて、とっくに見慣れているものの
やっぱりどこかオシャレを気にしているようで、また一味違う雰囲気だ。

「とりあえず、映画とかでいいよね」
そう言って、手に丸め持っていた薄いパンフレットを広げた。
こういうところは、フレンのほうがマメだと思う。
「あ、これなんかいいカモ」
「...恋愛モノはゴメンだぜ?」
「ええっ!じゃあ、何だったらいいのさ」
「そうだなー。アクションものとかねぇのかよ。
 こう、スカッとするやつ!」
「ふふっ、ユーリはそっちのほうが好きだもんね。
 じゃあ、これとかは?『カンフーエッグベア』」
「どれ?」
ユーリがフレンの持つパンフレットを覗きこんだとき
周囲にキャッと、黄色い声が聞こえた。
「...え?」
驚いて顔を上げると、女の子たちの視線が自分たちのほうへ向けられていた。
しかも、結構な人数。
何故注目されているのか分からないが、何故か恥ずかしくなってきて。
「.........い、行こうか、ユーリ」
「お、おう」
いたたまれなくなって、そそくさとその場を後にした。


結局、映画はフレンの選択に任せることにして
映画館へ向かって歩く。
「それにしても寂しいよなぁ〜。男ふたりでクリスマス...」
街ゆく人々は、やはり恋人どおしの割合が多くて
中には女の子同士のグループも見かけるが
男二人だけなんて、ほとんど見かけない。
「そうかな?別にいいんじゃない?どうせ僕もユーリもヒマなんだし」
「それが寂しいっつってんの」
ユーリのボヤキに対して、フレンは意外とあっけらかんとしている。
「お前だって、オレなんかよりも女の子と歩いてたほうがいいだろ?
 ほら、エステルとか」
「は?エステリーゼ様?」
突然出てきた名前に、フレンはきょとんと眼をまるくした。
何故ここで、エステリーゼの名前が出てくるのか?
そして、ユーリが言わんとしていた意図が掴めて、思わず笑いが込み上げてきた。
「なっ、なんだよ...」
「あはは、ごめんごめん。いや、何で急にエステリーゼ様の名前が出てきたのかと思って」
「それ、笑うトコかよ」
「だからごめんって。それに、僕とエステリーゼ様は、そんな関係じゃないよ」
「違うのか?」
ユーリとエステルが出逢う前から、すでに親しげだったふたりだ。
それからも、何やら親密に話をしている機会を見ることもあったからてっきり...。
軽く首を傾げるユーリにそっと近づき、フレンがそっと耳元で囁いた。
「ふふっ、ヤキモチ焼いてくれて嬉しいよ」
「...っ!!誰が焼くかーー!!」
「あはははは!ユーリってば、かわいー」
「かわいーゆーなっっ!!」
顔を真っ赤にして拳を振り上げるユーリから、笑いながら逃げていく。
まったく、何を言い出すのかこの親友は。
そんなやり取りも、いつものことなのだが...。
大きくため息をつき顔をあげると、数歩先で立ち止まって、こちらを待っていた。
「ほら、行こうユーリ。始まってしまうよ」
「....しゃーねぇなぁー」
そしてまた、ふたりで並んで、映画館へと歩いていくのであった。



クリスマス前に拍手おまけSSとして掲載してました。
うん。クリスマス『前』に出してたんだよね、コレ...。
あれ?

男ふたりで映画なんて、フツーに行きますよねっ。
その後のパフェは無いですが(笑)


(2009.11.14)



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