くったりと力の抜けてしまったユーリの身体を抱き上げ、フレンは再びベッドへと戻ってきた。 バスタオルを巻いてやり、しっとりと水を含んだ髪の毛を拭いている間も、ユーリはとろんとした表情でフレンの仕草を眺めていた。 気付けば時間は夕暮れを過ぎていて、部屋の中が徐々に薄暗くなっていく。 部屋の明かりを灯そうとフレンが腰を上げたが、引っ張られる感覚にその動きを止めた。 見ると、ユーリが服の裾をちいさくつまんでいる。 「......灯り、いいから」 視線を逸らして呟いたユーリに、フレンは首を傾げた。 「このまま寝る?」 「ああ」 ならば着替えを、と方向を変えて一歩踏みだそうとしたが、ユーリはまだ裾を放してはくれない。 「ユーリ?」 服をつまむ指に自分の手を重ねて、フレンは名前を呼んだ。 ユーリはゆっくりと顔をこちらへ向けて、だけどうろうろと視線が彷徨っている。 「...いいから」 「え?」 そして今度は視線を合わせて、小さくだけど確かにユーリは呟いた。 「抱けよ、フレン」 「......」 フレンは、返事に詰まった。 確かにさっきはいたずら心が芽生えたと同時に抑制も効かなくなってしまいあんな事をしてしまったが、本当はユーリに、ユーリの足に負担をかけたくはないと思っているフレンだ。 まだ水気を含んだユーリの髪をなでてやりながら、フレンは顔をのぞきこんだ。 「だけど、ユーリ...」 「お前な。さっき散々人を煽っといて「ハイ終わり」なんて、結構ヒドくね?」 「それは......」 「それにお前だって、溜まってんだろ」 「ユーリ。今は僕のことより君の足を...」 「だーっ、もうっ!」 いつまでも煮えきらないフレンにユーリがキレて、その頭を思いっきり抱え込んだ。 「ちょっ、僕、服汚れてるからっ」 「だったら、脱げばいいだろうが!」 「わっ!待っ......!」 フレンの言い分を待たず、ユーリは強引に服を脱がしていく。 乱暴な手つきで上着をすべてはぎ取って、まだ困惑しているフレンの顔を引き寄せて、深く口づけた。 「んっ、ユー......」 「ん......」 ユーリのほうから舌を差し込んできて、熱い口の中を堪能する。 先ほどまでとは、全く立場が逆転してしまっていた。 風呂あがりの火照った身体はやわらかくて気持ちよくて、いつにない積極的な姿に頭がぼーっとしてくる。 しばらくしてそっと口唇を離すと、至近距離で熟れた瞳が好戦的に細められた。 「どうだ。その気になったか?」 「もう。どうなっても知らないよ?」 フレンはユーリの身体をベッドに縫い止め、ゆっくりと上に多い被さった。 手をのばして、ベッドサイドの明かりだけを灯す。 暗くなった部屋で、ふたりの姿だけがオレンジ色に浮かび上がった。 「ユーリの足が治るまではって、せっかく我慢してたのに」 「もう大分良くなったよ。お前のおかげでな」 「治りかけが大事って言うじゃないか」 「風邪じゃねんだ。大丈夫だろ」 「...久しぶりすぎて、手加減できそうにないんだ」 「......」 最後の呟きは、冗談めいた色が瞳から消えていた。 まっすぐで誠実な、青い瞳。 ユーリはそれを真正面から受け止めて、両手をのばした。 「いいぜ、来いよ」 「ユーリ...」 「欲しくてたまんねぇんだ。お前が」 「――っ!」 それからは、ふたりに言葉はいらなかった。 がむしゃらに身体を抱きしめて、体中に刻印をまき散らしていって。 熱で貫けば、ユーリもまた歓喜の声をあげながらそれに応えた。 「ああっ、フレンっ、ふれ...!」 「ユーリっ、すごい...こんなに」 「やっ、奥...っ、あっ、あ...」 「あたる?ここ?」 「んあっ!そこっ、やっ、んん...」 無意識に逃げようとする細い腰を捕まえ打ちつければ、髪を振り乱して快楽に追いつめられていくユーリの姿。 たまらなく、官能的だ。 「ふれっ、も...、ああぁぁっ」 「いっしょにイこう、ユーリ」 「んっ....!」 喘ぐ声も口唇で奪って、ひたすらふたりで高みを目指して。 ユーリが果てると同時に、フレンもまた最奥で熱を放っていた。 翌朝。 その日もユーリは、フレンのベッドの上にいた。 その傍らにはフレンと、エステルの姿があった。 「さあユーリ。そろそろ痛みも引いてきた頃ですし、リハビリを始めましょう。私、先生に色々と伺って『松葉杖』というものを作ってきたんです」 彼女の側には、木で作られた2本の棒。 話を聞けば、それを使って足を庇いながら歩くのらしいが。 「や、エステル。気持ちはありがたいんだが、できれば明日から...」 「だめですっ。いつまでもベッドに寝てばかりじゃ、おしりから根っこが生えてしまいます!」 「いくら何でも生えねぇって」 何が彼女をこうも駆り立てるのか。とにかくエステルは『松葉杖』の効果を試したくて仕方がないようだった。 しかしユーリとフレンも、ユーリが動きたくない理由をエステルに告げることもできず。 まさか、昨晩ハメを外しすぎて、ユーリの腰にきてるなどとは。 「エステリーゼ様、ユーリもこう言ってることですし、リハビリは明日から...」 「フレンは黙っててくださいっ!!」 「.........はい」 「はいユーリ、これを持って。今日はひたすら、歩く訓練ですっ」 「い゛っ!!」 ユーリの悲惨な1週間は、まだまだ終わりそうになかった。 おしまい。 |
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