帝都ザーフィアス。 騎士団を脱退し、旅を続けていたが 結局金がなくなって下町に戻ってきた俺は、ふらふらした毎日を送っていた。 とはいえ、暇な生活というわけではなく、 揉め事が始まれば呼ばれ、 じぃさんに呼び出されては人手が足りないからと肉体労働に駆り出されたりと、 それなりに忙しい日々が続いている。 下町の生活は相変わらず厳しい。 貴族の連中は見下しやがるし、帝国の連中は威張ってやがるし。 アイツが上に立てば、この状況も少しはマシになるんだろうか...。 「もうすぐ1年か...」 俺が騎士団を脱退してから、アイツと会うこともなくなった。 アイツのことだから、きっとうまくやっているのだろう。 相変わらず、規則だ組織だごちゃごちゃと 口うるさいことを言っているのだろうか。 ふと、頭ン中で、あの頃の日々がよみがえる。 「.......今頃、どうしてんだろうな」 「バウッ!!」 下宿している宿屋の前を通り過ぎようとしたとき 足元で、ラピードが一声吠えた。 「ん?どうした?ラピード」 ラピードが入り口を向いていたので、同じ方向へ視線をやる。 「え................」 扉にある小さな窓から、ちらりと覗く人影。 (まさか....) 頭で考えるよりも先に、足が動いていた。 扉を勢いよく開け、中に飛び込む。 俺と同じくらいの背格好の 見覚えのある金髪。 騎士団の服ではなかったが、俺が見間違えるハズがない。 宿屋のおかみさんと話していたそいつは、扉の音に振り向くと 俺の顔を見て、ふわりと笑った。 「ユーリ!久しぶりだね」 「フレン。なんでこんなところに居やがるんだよ」 「む。なんだとはご挨拶だね。せっかくわざわざ来てあげたというのに」 会って早々、ケンカをしたいわけじゃないのに 口から勝手にぽんぽんと言葉が飛び出す。 やっぱコイツとは、こーゆーふうになるようになってんのか? 「『騎士団続ける』とか言っておきながら、こんなところをふらふらと。 まさかお前、騎士団辞めてきたんじゃねぇだろうな?」 「まさか。今回異動があって、帝都に配置されることになったんだよ」 え...............。 「.............マジか?それ....」 「本当だよ。そうでないと、なかなか帝都まで来る機会もないからね」 騎士団の配属先は世界中にあるため、帝都の配属になる奴は限られている。 逆に、帝都に配属されるということは、出世を見込まれているということだ。 しかも、たった一年で。 コイツ......。 「そういうユーリは、今、何をしているのさ」 「ぐっ......」 ダメだ。言い返せない....。 今のコイツと比べたら、俺なんて......! 「まあまあ、こんなところで立ったまま喋ってないで 部屋でのんびりしたらいいじゃないのさ。 積もる話もあるだろうに」 「それもそうだね。 君の部屋に案内してくれるよね?ユーリ」 おかみさんの言葉に、フレンがにっこりとこちらに笑顔を向ける。 俺のほうは、そんなに積もる話もないんですけど......? 「汚っっ!!!」 「うっせ!!!」 開口一番、フレンが叫びやがった。 「はぁぁぁぁ〜〜。どうせこんなことじゃないかと思ったよ。 騎士団に居たころと、全く変わっていないじゃないか」 「うるせぇな。俺ひとりが使ってる部屋なんだから、俺の勝手だろ」 「って、ここ下宿で借りている部屋なんだろ? ちょっとは掃除くらいしたらどうなんだい!」 「俺はこれくらいのほうが、落ち着いていいんだよ」 「.................これじゃあ、僕が落ち着かないよ」 「は?」 ぽつりと呟いた後に顔をあげたフレンは 完全に瞳の色が変わっていた。 「こうなったら、徹底的に掃除してやる! ユーリ!!ほうきと雑巾を持ってきてくれ!!!」 「はああああああ!!!!???」 ちょっと待て! なんでこんな展開になるんだ? 「なんで俺がお前に部屋の掃除されなきゃなんねぇんだよ! って、おいコラ、勝手に触んな!!」 「いっそのこと、アレもコレも捨ててやる!!!」 「ぎゃあああああ!!!!」 3時間後。 ようやく解放された俺は、ぐったりとベッドに腰かけた。 外はとっくに日も暮れている。 部屋にあった荷物はほとんどがフレンの毒牙にかかり 住み始めた頃よりも綺麗になってんじゃねぇのか?ってカンジだ。 弱っている俺なんか目もくれず 元凶のアイツは、すっきりした顔をしていた。 いったい何しに来たんだ、コイツは....。 「ふぅ〜。まだ物足りないけど、今日はこんなところかな」 物足りないって....、いったいどんだけやれば気が済むんだ? コイツに任せてしまうと、机もベッドも何もかも捨てられそうな気がする....。 「さ、落ち着いたところで、しようか?ユーリ」 顔をあげると、さわやかな笑顔で、こちらに両手を広げて待っていた。 「あ?するって、何を」 「何って、そんな野暮なことを言わせないでよ。 久々に再会したんだし、ゆっくりユーリを味わいたいじゃないか」 ............................................................。 もしかして、コイツ。 そのためだけに、張り切って掃除してやがったのか? そのためだけに、俺は3時間も振り回されたってのか? 頭ン中で、何かが切れる音が確かに聞こえた。 「てめぇぇぇぇぇ!!!!ふざけるんじゃねぇぇーーー!!!!!」 渾身の一発を、顔にお見舞いしてやった。 感動の再会が台無しだぜ......。 |
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