「―――で、マンタイクの魔物の件はユニオンからギルドを派遣するから、しばらくは持ちこたえられるだろ」 「うん、了解」 「それからカプワ・ノール沖の異変だが、あれは調査してみねぇと今は何とも言えないな。 レイブン隊数名とアスピオの研究者を連れていこうと思ってるんだが、どうする?」 「そうだな。ユーリの判断に任せるよ」 「了解。あと、ノードポリカで起こってたギルドと騎士団の小競り合いは、オレ達でなんとかしといたから」 「ありがとう。さすがユーリだね」 「.........」 ユーリは書類から視線を外し、目の前に座っている騎士団長へと目をやった。 当の本人は、ただユーリの報告を頷きながら聞いている。 にこにこと満面の笑みを浮かべて。 ユーリはフレンの執務室に居た。手には書類の束を持って。 服装もいつもとは違う。髪の毛はひとつにまとめ上げ、身体にフィットする黒と赤を基調にしたデザインの衣装を身に纏っていた。 普段のように着崩してはおらず、胸元まできっちりと締められている。 そう。ユーリは現在『騎士団長補佐』として、騎士団で任務に付いている。 そして騎士団長への定時報告のため、この場所へと足を運んでいたのだ。 なのに。 「報告は以上。何か質問は?」 「聞きたいことは特にないけど、ユーリの入れたお茶が飲みたいな」 「〜〜〜っ。わーったよ」 バサリとわざと音を立てて書類を机に置き、騎士団長室の片隅に置かれているティーセットへと足を向けた。 冷めかけていた湯を再び沸かし、慣れた手付きで茶葉をポットへ入れる。 ...背中越しに、ひたすら熱い視線を感じる。 紅茶の用意に専念しようとしても、どうしても意識がそっちに向いてしょうがない。 先ほどの報告の時もそうだ。 こっちは仕事として淡々と終わらせたいのに、熱い視線が止むことはない。 何?視姦プレイか? やがて、その気配が椅子から立ち上がるのを感じた。 そしてゆっくりとした足取りで、こちらに近づいてきて。 自分の後ろで立ち止まったかと思えば、やんわりと腰に腕が絡んできた。 ユーリは重くため息をついた。 「...セクハラで訴えるぞ」 「僕とユーリじゃ、誰も取り合ってくれないと思うけど」 あえて低い声で脅してみたのに、全く堪えてもくれないようだ。 ユーリの意に反して、フレンはぴったりと背中にくっついてくる。 そして肩越しに、紅茶を入れる様子を眺めているようで。 「オレはお前のお茶汲みのために、この仕事やってるんじゃねーぞ」 「だって、急に紅茶が飲みたくなったんだもの」 「仕事はどうした」 「ユーリがほとんど片付けてくれているから大丈夫」 「じゃなくて。今、勤務時間中なんですが?騎士団長様」 「以前の君の口からは、想像つかない言葉だね。それ」 くすくすと笑うフレンの吐息が、耳にかかってくすぐったい。 星喰み討伐後、しばらくして騎士団長に就任したフレンは、騎士団と世界の立て直しに躍起になっていた。 それはもう、限界を超えるくらいに。 その姿は何かに憑かれているようにも思えるくらい、周りから見ても酷い有様で。 もう見ていられなくなってしまったユーリは、以前ヨーデルから申し出があったこの任務を引き受けることにしたのだ。 フレンの負担を、半分引き受けるために。 なのに。 この想いを解っているのかいないのか、フレンは隙あらばこうやって自分に触れてきたがる。 別に、以前からそういうカンケイになっているので嫌な訳ではないのだが、どうしても気になってしまうことがある。 自分が側に居るせいで、彼が本来やるべき仕事が滞ってしまうのではないかと。 「大丈夫。ユーリは普段働き過ぎなんだから、たまにはこうやって休憩くらい取らなきゃ」 「!」 フレンの台詞にユーリは瞳を丸くした。 「...まさか、お前の口からそんなコト言われるとは思わなかったぜ」 「そう?」 「ついこないだまで、死にそうな面してやがったくせによ」 フレンの言葉は、以前ユーリが彼に対してかけていたものだ。 そのまんま返されるとは、不本意も甚だしい。 「それに、ユーリが来てくれたおかげで僕の仕事量が減っているのは本当だよ。自分のしなければならない事も、きちんとこなせてる」 「...ホントかよ」 「僕の机、随分と綺麗になっただろ?」 言われて目をやれば、確かに以前に比べれば書類の山の高さは低くなっている。 以前は机の上が一面真っ白になっていたのに、今は整然と書類も片付けられていた。 「だから、ね?ユーリ」 顎を軽く持ち上げられて、やわらかい感触が口唇に降りてくる。 そしてすぐに熱い舌が入りこんできて、ユーリは咄嗟に彼の胸を押し返した。 「おまっ!だから今は仕事ちゅ...んんっ....」 抗議の声を荒げても、すぐにその口唇は塞がれてしまい。 抵抗しようにもがっちりと腰を掴まれていて、逃げることさえ叶わない。 「...ふっ....んぅ....」 そしてもう一方の手が丈の短い上着の裾から侵入してきて、服の上を乱暴に弄っていく。 乳首のあたりを引っ掻くように刺激されれば、甘い痺れが身体を走り抜けた。 「あ...ふれ...っ」 口腔を侵され、胸を弄られ、とろけそうな感覚にだんだん思考も混乱させられていく。 自分では立っていられなくなってしまい、もう必死に彼の袖を掴むだけ。 身体の奥から湧き上がってくる感情に、身を委ねてしまおうとしたその時。 火にかけていたポットが、カタカタと音をたてた。 「.........」 気を逸らされたフレンがゆっくりと口唇を離し、その音へと視線を向けた。 ようやく解放されたユーリは、必死に呼吸と理性を整える。 「...はぁっ、だからっ、仕事中はやめろっ、ていつも...」 すっかり息もあがってしまい、さらに腰を抱えて支えてもらっているこの体勢では、全く説得力に欠けるのだが。 フレンはにやりと笑みを浮かべて、ぐっとユーリの腰を引き寄せた。 「僕に、仕事に戻ってほしい?」 耳元で低く囁かれて、ユーリは言葉に詰まった。 密着されられたこの状態では、服越しでも自分の昂りがバレてしまっている。 そして、フレンも――。 もう反論できなくなっていることを知っているくせに、わざと意地悪を言ってくる。 ユーリはフレンをひと睨みし、そしてわずかに視線を逸らした。 「...そういえば、今は『休憩中』...だったよな」 「そういうこと」 フレンはうるさいポットを火からおろし、ユーリの頬に派手に音を立ててキスをして、その身体を抱き上げた。 |
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