フレンが、パーティに入ることになった! 夕方。料理当番であるユーリは、いまごろ夕食の準備に励んでいることだろう。 フレンを除く残りのメンバーは、何故か円を描いて向かい合って座っていた。 「...ちょっとガギんちょ。なんでこんなトコに集まってんのよ」 「それは、リタもでしょ?」 「ウチも、ユーリとらぶらぶしたいのじゃ」 「あら、そんな野暮なことしたら、馬に蹴られてしまうわよ?」 「はぁ〜。なんで俺たちが、こんな気ィ使わなきゃなんないのかねぇ」 「別に、気を使っているわけではないのですが...」 一同、そろってため息をついた。 「フレンは、どこに行ったんです?」 「どーぜ、夕食の準備を手伝いに行ったんでしょ」 「うふふ、妬けるわね」 そう言って笑うジュディスは、全然そんなことを思っているようには見えない。 「でも、今日の朝ごはんの時。あれはびっくりしたよね」 カロルの言葉に、全員が今朝の出来事を思い出した。 宿屋で一泊したメンバーは、食堂で朝食を取ることになっていた。 ひとつの大きなテーブルを囲って、全員が席についている。 「リタ、ソース」 「ん?はい」 ユーリに声を掛けられて、向こうにあったソースの入れ物を手渡した。 「さんきゅ」 そして、ちーっとコロッケにソースをかけて。 「ん」 「ありがとう」 そのままソースをフレンに手渡した。 フレンは何も言っていないのに、だ。 ソースを受け取ったフレンは、コロッケの下に水たまりができるくらいに、だばだばとソースをかけた。 「すごかったよね、あのソースの量!」 「ツッこむところは、ソコじゃないでしょっ!!」 「あいたっっ!!!」 カロルは、リタに殴られた頭をさすった。 「あの見事なまでの連携プレイは、熟練夫婦のなせる技なのじゃ...」 ウチもマスターしなければと、パティが腕を組んでうなる。 「あ、その後も、気になるところがありましたよね」 エステルが身を乗り出し、話を続けた。 「フレン。お前、ソレかけすぎだっての」 「え、そうかな。これでも抑えたつもりだったんだけど」 「高血圧になっても知らねぇぞ」 少し不機嫌っぽく呟いて、米を口に放り込んだ。 「ごめん、気をつけるよ。....あ」 「え?」 顔を上げたユーリの口元にフレンの腕が伸びてきて、口唇のすぐ横を軽くぬぐい、フレンがにっこりとほほ笑んだ。 「おべんとう、付いてるよ」 「お、おぅ...」 そしてフレンは、嬉しそうにその『おべんとう』を口に入れる。 その時のユーリの頬がほんのりと色づいていたのを、全員見逃さなかった。 「く〜っ、青年のおべんとうなら、おっさんも取ってあげたいっ!!」 「あら、私がおじさまのおべんとう取ってあげようと思ったのに」 「ホント!?なら、今晩わざとおべんと付けちゃうっvv」 「今晩、鍋焼きうどんって言ってたわよ〜」 「ガーン!!!」 リタの台詞に真剣にショックを受けるおっさんは、あえて無視して。 「でも、ユーリがあんな風に口元にごはん粒付けているところ、私はじめて見ました」 そう。エステルの中のユーリのイメージは『頼れるおにいさん』だったのだ。 なんだかんだ言いながらも、さりげなく物事はきっちりとこなす人なのに、意外なところでだらしない部分を見た気がする。 「きっと、彼に甘えているのよ」 「フレンが居るから、です?」 「ええ。ホント、羨ましいわね」 少し寂しげに微笑むジュディスを見て、カロルが夕焼けに染まる空を仰いだ。 「そっかー。本当の『親友』って、あんなカンジなんだ。いいなぁ〜」 「...........................。」 「えっ、何?何!?僕、なにか変なコト言った!?」 一瞬にして場に沈黙が走って、カロルが慌てふためいた。 純粋なカロルの瞳には、あのふたりのやりとりを見ても『親友』と映っているのか。 「だ・か・ら、あんたはお子様だってのよ。このガキんちょっ!」 「痛い!いたいってば!!」 リタに頭をぐりぐりされる光景をみて、和やかな雰囲気に包まれた。 一方。 モチモッチン粉をこねて作ったうどんを切り終えたフレンは、ふぅと一息ついた。 「ユーリ、うどん出来たよ」 「おう。こっちに入れてくれ」 「わかった」 ふたつ並んだ片方の鍋には、もう煮込み用の出汁が出来つつある。 フレンは粉まみれの手を洗い終えると、鼻歌まじりで鍋を掻きまわすユーリの隣に立った。 「おいしそうだね」 「ああ、うどんも良いカンジだぜ」 ユーリは髪の毛をひとつにまとめ上げているため、その嬉しそうな表情が容易に見て取れる。 こうやって、愛しい人のすぐ隣に居られることに幸せを感じて、フレンの頬も自然に緩む。 「...ヨーデル殿下とソディアに、感謝しないとね」 「ん?」 「おかげで、ユーリに触れられる機会が増えた」 そう呟いて、その細い腰に手を回し、軽く引き寄せた。 「...あんま調子乗ってると、殴られるぞ?」 口ではそう言うが、抵抗する気はないらしい。 そっと寄りかかってくる温かい重みを、フレンも柔らかく受け止めた。 やがてゆで上がったうどんを出汁の鍋に入れて、あとは味が染み込むのを待つだけ。 仕上げに香り付けのしょうゆを少し入れれば、良い匂いが辺りを包み込む。 「ねぇ、ユーリ」 「ん?」 「味見、してもいい?」 「いいぜ?ほら」 持っていたおたまを、フレンに差し出す。 だけどフレンはおたまを受け取らずに、それを持つ手を握った。 「そうじゃなくて、こっち」 少し目を見開いたユーリの顔に、ゆっくりと影が落ちる。 そして、柔らかく重なった口唇。 軽く重なっただけのキスをして、そっと離れた。 ユーリの頬が朱に染まっていたのは、夕陽のせいなのか、それとも...。 「...フレン」 「なんだい?」 「調子に乗るとどうなるか...、言ったよな?」 「えっ」 腰に回していた腕が、ぎくりと固まった。 腕の中に収まっているユーリが、極上の笑みを浮かべている。 そしてその口唇が、ゆっくりと開いた。 「蒼破!!」 「!!!!」 「何の音です?」 「晩御飯ができた合図でしょ」 レイブンがよっこいしょと声を出し、埃をはたきながら立ちあがる。 その隣で、ラピードが大きなあくびをした。 |
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