お子様たちは宿へ置いて、大人メンバーだけで酒場に来ていた。 最近、大きな戦闘が続いてしまったため、首領であるカロルの計らいで明日は一日休みになったのだ。 本音をいえば、ゆっくりと二人の夜を過ごしたいと思っていたユーリだった。 しかし、当のフレンが皆と親睦を深めたいからと乗り気だったし、明日もゆっくり時間はあるのだからと、自分も付き合うことにした。 ちらりと奥のテーブルに視線をやれば、頬を赤くして笑っているフレンの顔。 彼は騎士団に所属している身だというのに、ギルドの猛者共に囲まれて談笑している。 たまにはこういう息抜きも必要かと、ユーリもグラスの酒を一口含んだ。 「あれあれ〜?青年、呑むペース遅いんじゃないの〜?」 ふらふらとした足取りのレイブンが、酒瓶を片手に寄ってきた。 「おっさんは、もうすっかり出来上がってるみたいだな」 「そんなことないわよ〜。ささ、呑みなさい呑みなさい」 そう言ってユーリの隣に座り、どくどくと勢いよく酒をグラスへ注いでいく。 「おいおい、この酒、キツいんじゃねぇの?」 「およ。お酒弱かったっけ?」 「弱いわけじゃねぇけど、特に強いわけでもねーよ」 「ならいいじゃないの。どうせ明日は休みだし」 本当は、レイブンやフレンが酔い潰れてしまうことを危惧して、飲む量をセーブしていたのだ。 ジュディスを含めた4人で酒場へ来ているが、さすがに女性1人に男3人の介抱を任せるわけにはいかない。 (そういえば、ジュディスが酔い潰れている所を見たことが無い...) レイブンのやや強引な誘いに、ユーリは苦笑した。 「おっさん、オレを酔わせてどうする気だ?」 「あら、下心あるように見える?」 「ああ。それはそれはたっぷりと、な」 「心外ね〜」 ユーリの言葉に、がっくりと項垂れる。 「でも、今日はそーゆーコトにしちゃおうかな」 そうぽつりと呟いて、そっとユーリを見上げてきた。 その瞳に『男』の色がほのかに混ざっている気がして、ユーリは片眉を上げた。 「おっさん?」 「ねぇ、ユーリ君。実際の所どうなのよ」 「何が」 「フレン君と」 「はぁ?」 話の意図が全く掴めない。いや、掴まれたくないと言ったほうがいいのか。 「アンタ、だいぶ酔っ払ってるだろ」 そう言って、あえて話を逸らそうとした時、レイブンの腕がこちらへと伸びてきた。 そしてその指がさらりと髪に触れ、そのまま頬へと滑り落ちてくる。 瞬間、ざわりとした感覚が身体を走った。 「ユーリ君、おっさんと遊ばない?」 「おっさん....?」 「本気じゃなくていいからさ。たまには中年の魅力も感じてみなさいって」 「なんだそれ」 思わず、ユーリは吹き出してしまった。 口説き文句にしては、間が抜けすぎている。 そんなユーリの態度に気をよくしたのか、レイブンの態度が積極的になってきた。 今度はユーリの顎に指をかけて、軽く引き寄せる仕草をする。 「おっさん、テクあるわよ?」 「訳わかんねーこと言ってんなよ。だいたい、フレ...」 その時。 レイブンとユーリの間に、高速の何かが上から振り下ろされた。 とっさにレイブンは手を引き、身体も後方へとのけ反らせる。 ゆっくりとテーブルに視線をやると、レイブンとユーリの間で真っ二つに割れている。 その反対側を見ると、青いオーラを身に纏ったフレンの姿が。 振り下ろした剣を持ち上げ、彼は顔をあげた。 「シュバーン隊長....」 その瞳からは、ハイライトが消えている。 「ちょっ、ちょっとフレン君!俺様はレイブンよ!レ・イ・ブ...」 「シュバーン隊長!!」 言葉を遮るように喝を入れられ、レイブンの顔が引きつった。 「貴方...、先ほど『僕の』ユーリに手を出そうとしていましたね?」 「ヒッ!ち、ちが...、誤解だって...」 さりげなく問題発言をかましているが、今のレイブンにそんなことを気にする余裕はないようで。 「成敗!!!」 「ぎゃーーーー!!!!」 再び剣を振り上げたフレンにおびえて、レイブンは身をひるがえし走り出した。 「...ったく、だから言わんこっちゃない」 ユーリは、頭を掻きながら溜め息をついた。 酔っ払ったフレンに冗談は通じないと忠告しようとしたのに、どうやら手遅れだったようだ。 「あら、随分と楽しそうね」 いったい今までどこに行っていたのか、ジュディスがユーリの後ろに立っていた。 「楽しそうって...。ここの片付け、いったい誰がやるんだ?」 「後で、おじさまにしてもらえば良いんじゃないかしら」 「...それもそっか」 もう今日は、落ち着いた夜を迎えられそうにないな。 ユーリはグラスの酒をぐびりと煽った。 「じゃあ...」 ジュディスは、そのすらりとした細い指でユーリの顎をくいっと上に向かせ、そしてにっこりと満面の笑みを浮かべた。 「私と、イイコトしましょv」 「!!!」 |
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