事の始まりは、おおよそ1時間前のダングレスト。 この日凛々の明星は、酒場での配膳作業を正式なギルドの依頼として請け負っていた。 以前軽い気分で手伝った時の働き振りを、酒場のオーナーが大層気に入ったらしい。中々の高時給を提示された為、意気揚々とした彼等は仕事を了承する。 但し、たった一人の青年を除いて。 「ったく、これはねぇよな……あの変態店主め……」 持ち前の男前な顔を膨れっ面を保った侭、ユーリは一人店の外に座り込んでやる気の無い客引きをしていた。 彼が今身に纏っているのは無理矢理渡されたメイド服一式。これを着て仕事をしろと言われたのだから、当人は堪った物では無い。 突然メイド服を差し出されたあの時、何とか逃れようと努力はしたものの、目を輝かせた女性陣に恐ろしい位圧倒されてしまったら、流石のユーリも退路が無くなってしまった。 そこで、渋々ながらも着用する事を了承した代わりに、外で客引きをする役目にして貰う。勿論、店先が人目に付く場所であるのも全て承知の上で。 ユーリは仲間達の目を盗み、隙を見て自分の衣服に着替えそのまま逃げてしまうつもりで居た。 直ぐにその目論見は破綻する事になるとは露知らず。 ほんの少しだけ店頭に立ち、さっさと着替えに戻ったユーリを待っていたのは、笑顔で指をポキポキと慣らすジュディス。 感の良い彼女は、彼の服を女子更衣室の奥深くに隠してしまっていたのだった。 『うふふ、自分で客引きするって言ったんだから、しっかりお仕事してね。ギルドの信頼、落としたくないでしょう?』 『……うっ』 背後に隠し持っているキラリと光る槍を見てしまったら、もう従う他ない。 そんな訳で、もう逃げられないと知り半ばヤケクソの様な気分になったユーリは、時折鼻の下を伸ばし近寄ってくる男達を、無愛想ながらも次々店の中に誘い込んでいるのだった。 早くこの場から消えたくて仕方が無い。 苛々しながらそう思っていたユーリに、またもや大きな不幸が舞い降りる。 「はぁ……」 何度目か解らない溜め息をついている途中、ふと急に目の前に影が差した。 また客かと俯いていたユーリが上を見上げたら、其処には一番この格好を見られたくない人物が佇んでいて。 「げっ、フレン!何でお前が」 「はぁ、やっぱりユーリか。…………ちょっとこっちに来るんだ」 「あ、コラ!やめろッ馬鹿」 ただでさえ、今まで履いた事の無い踵が高い靴を履かされているのだから、グイグイと力強く手首を引っ張られてしまったら抵抗なんか出来る筈がない。 それに何時もと違う、何処か怒りを漂わせるフレンの声に、ユーリは少しだけ怯えを感じた気がした。 「なにキレてんだよ」 「…………」 「おい、フレン…っ」 結局この後も何の会話も無いまま、ずるずると引き摺られたのは、どうやらフレンが泊っているらしい宿屋の一室。 その中に入るなり突然、ベッドに投げ出されて……否、押し倒されてしまった。 「……っ!」 痛みに文句を言う間も無く直ぐ様フレンはその上にのし掛かって来て、ユーリの形良い顎先を指先でくいっと持ち上げる。 案の定彼は怒り心頭だったらしい。目の前の青い双眸が全然笑って居なくて、ユーリはゴクリと生唾を飲み込んだ。 「怒ってる理由、わかるだろ」 「…………」 「まるで誘ってくれと言っている様な格好じゃないか。僕以外の人前で、この綺麗な脚を惜し気も無く晒すなんて……一体どういう事?」 「ぅあっ……何処触って…っ、つーかちゃんと膝上までの靴下履いてんだろ…!」 「ちゃんと身体に教えてやらないと、ユーリはわかってくれないみたいだ」 「無視すんな…、あ……、ッ俺の話も聞けって」 「言い訳は聞かない」 大腿部の内側に触れながら少々荒っぽく唇を重ねられ、2人の会話は一旦終止符を打つ。 この格好が気に食わない癖にちゃっかり靴以外脱がさないでそのまま行為に及び始めるとか、実はコイツ案外コスプレ嗜好でもあるんじゃないかと、少しずつぼんやりしてきた思考の中でユーリは思った。 その一方で、そんな彼の果てしない性欲と怒りの雰囲気に気圧され全く抵抗が出来ない自分に、若干情けなさを感じている。 「っ、ふ……はぁ」 「……、ん」 首元にあるフリルのチョーカーに添えられている小さな鈴が、外の喧騒と相反するこの静かな室内に鳴り響いた。 これから襲ってくるであろう、熱い快楽の渦へ溺れてゆく合図の様に。 「、あ……っ、うっ、く」 「声、抑えないで。聞きたい」 「……ッ!あぁっ、や、だ……フレ、ンっ…!」 元々それなりに露出度の高かったメイド服が大きく着崩され、今となっては肩口や胸部・下肢の付け根までもが露となっている。 ウエストに付いていたフリルエプロンは外されていて、今はユーリの手首を戒める物と成り下がった。 ちゃんと脱がせて貰えない中での絶え間無い行為は、借り物の服に唾液を付着させるだけでなく、扱かれ続けている陰茎の先から零れる蜜をもスカートに溢れさせてしまう。 「…うぁっ、も、またっ…イ、く……あ、あ……ーッ!」 「ああ、もうイっちゃったんだ。2回目なのに凄い量……服もシーツも、汚したら駄目じゃないか」 「はぁっ、はぁ……っさいあく、誰のせいだと…思って…」 「堪えられない身体がいけないんだよ。……ほら、続けるね」 「っあ、待っ……あぁっ!」 四つん這いにさせたユーリの背後からフレンは容赦ない突き上げを再開する。未だ絶頂に達したばかりで敏感な身体に、挿入したままだったフレンの陰茎が奥深く迄捩じ込まれ、ユーリはしなやかな身体を一際大きく仰け反らした。黒髪に良く映えるヘッドドレスが、今にもずり落ちそうな程に。 挿入部分からはどちらのものか解らない卑猥な体液が少しずつ零れ出しており、細い脚を包むニーハイソックスを妖艶に濡らしていた。 最中、半端に緩んでいた背中のファスナーを全て開けられたかと思えば、背筋に添って熱い吐息と舌がじっとりと這う感触に見舞われてしまい、ユーリの内壁はピクピクと痙攣する。 馬鹿みたいに堅くしてるフレンの陰茎は充分な興奮材料となって、2回も精子を吐き出しているユーリのそれも再び熱を含み始めた。 「あっあ、は…ぁッ…も、無理……フレ、ン…ッ!」 もう頭の中はぐちゃぐちゃで、今にも理性を手放してしまいそうになった、その時。 余りにも素直で、実に可愛いらしいその反応に、フレンはついにクスクスと笑い声を溢してしまう。 ……其処にあの怒気は全然含まれていない。 嫌な予感が瞬時によぎったユーリはハッとして、震える瞳で背後の人間を振り返ると、その予感に間違いが無かった事を知る。 「っあ、や、てめ……うっ、く……ま、まさか…」 「バレてしまったか。……まぁ、折角だから、可愛いメイドさんを味わっておこうと思って」 「ん、クソ……ッ、騙された…、あっ…!」 「こうでもしないと、ユーリは言う事を聞かないから……はは、僕に一本取られたね」 「や、めろ……あッ、今すぐ離れろ、この変態……っ!」 やられた。この満面な笑顔を殴り飛ばしてやりたくて、とバタバタと身体を暴れさせてみたものの、がしりと腰を掴まれてしまった為、無理だった。 そう、フレンが怒っていたのは全てフリ、つまり嘘だったのだ。騎士団で培った独自の威圧感を出せば、ユーリは嫌々ながらも従う事を知っていたから。 「ここで止めたってツラいだけだろうに」 「っ、!」 「それに怒ってたのは本当だよ。余りに可愛い服を着ているから、嫉妬してまったんだ」 「……、あ、んッ」 「……もう我慢出来ない」 掴まれた腰が好き勝手動かされ、肌のぶつかり合う音がユーリの鼓膜を襲う。声にならない悲鳴を上げて、涙に濡れた頬をシーツに擦り付けた。 こんな女の格好に何を見出だしたのかは知らないけれど、フレンの欲情を大きく煽ったのだけは間違いない。 フワフワと舞うスカートが性急に腰まで捲し上げられ、きっと深々と繋がった箇所を視姦されているんだなと薄々勘づいていても、ユーリはただ激しい欲の塊を受け続ける事しか出来なかった。 勝手に抜け出した事とか、汚れた服をどうするかとか、もうフレン以外の余計な事は考えられなくない。すっかり彼に毒されたユーリは、もう貪欲に快感を求めるだけ。 熱い白濁が胎内に注ぎ込まれる感触を無意識に待ちわびる。嗚呼、それまであと少し。 「、あっ、う…っあ……、ふれ、ん……あっ、も、駄目ッ……だ、」 「はぁ、……っ、ユーリ」 「あぁ、ッくぅ…ああ、んうっ、ーッ!」 華奢な肩口を大いに魅せる黒ワンピースは、袖口等に可愛らしいフリルが施されて。 胸部から腰にかけて重ね着された真っ白なビスチェは、細いウエストを強調するかの様に美しく輝く。 そしてワンピースの下部。此処には沢山の柔らかい布が幾重にも縫い付けられ、ふわふわ感のあるスカートを表現していて。 腰で結ぶタイプのフリルエプロンと、可愛らしいヘッドドレスが、より彼に華を添える―― 「完璧だ、ユーリ」 「…………どこがだよ!」 あの日のセックスを境に頭のネジが若干飛んでしまった恋人は、事もあろうにユーリの知らぬ間に、あの時着ていたメイド服を買い取ってしまった。 以降、事ある毎に無理矢理コスプレに付き合わされる形となってしまったユーリは、ついつい殴り飛ばしてしまいそうな気持ちを必死に抑えつつも、また今夜も仕方がなくあの服に袖を通す様に。 断じて、メイド服が気に入った訳では無い。 この衣装を纏う度に、普段の生活を忘れて自分を夢中で求めてくるフレンを見るのが、ほんの少しだけ癖になってしまったから。 「……大好きだよ、ユーリ」 「…………俺も」 勿論、そんな事は言ってやらないけど。 何処までも果てしない××× |
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